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グレコローマン とフリースタイルの歴史

 
世界中には、色んなスタイルのレスリングがありますが、オリンピック競技でもあるアマチュアレスリングを統括している世界レスリング連合(UUW)の管轄ルールは、男子はグレコローマンとフリースタイル、女子はフリースタイルのみとなっていますよね。では、グレコローマンスタイルとフリースタイルが現在の形に至るまでの各レスリングスタイルの歴史を順に見て行きましょう。

1. グレコローマン スタイルとは

グレコローマンとは、フランス語で「ギリシャとローマの」と言う意味で「フレンチレスリング」又は「フラットハンドレスリング」とも呼ばれています。皆さんご承知の通り腰から下は攻撃してはいけないスタイルですね。紀元前イタリア半島中部にあった都市国家を形成していたエトルリア人の遺産とギリシャ式レスリングを元に復元され進化したのが原型とされていてアマチュアレスリングでは最も古い歴史のあるスタイルです。
 

グレコローマン スタイル レスリング
 

近代的なスタイルにしたのはフランス人で興行師のジャン・エクボラ。彼はレスリングを近代スポーツとして捉え安全面を考慮して腰から下は掴んではいけないと言うルールを作り、このスタイルをフラットハンドレスリング又はフレンチレスリングと名付けました。彼はショービジネスの要素を取り入れたプロレスの基礎を作った人物でもあります。このフラットハンドレスリングは移動遊園地(サーカス)をベースにヨーロッパ中に広まり、大変人気のあるスポーツに発展します。
 

中世レスリング
 

ちなみにこの時期、移動遊園地(サーカス)で活動していたレスラーは男性だけではなく女性レスラーも多く存在して女性のトーナメントも開催されていました。
 

中世レスリング女性
 
中世レスリング女性 サーカス

時期は不明ですが、イタリアのレスラーであったバジロ・バートレッティは古代ギリシャと古代ローマ帝国に敬意を表し、このスタイルをグレコローマンと名付けます。
19世紀にはヨーロッパ大陸でこのスタイルが非常に好まれ、多額の賞金が出た国際グレコローマントーナメントも開催されています。
しかしイギリスは別で、制約が多すぎるグレコローマンスタイルを嫌い今のフリースタイルの様なスタイル(後のキャッチ・アズ・キャッチ・キャン/CACC)で行っていました。
 

キャッチ・アズ・キャッチ・キャン
 

1896年からの近代オリンピックでは、グレコローマンスタイルでレスリング競技が行われています。
19世紀最も有名なグレコローマンレスラーは「ロシアのライオン」と呼ばれたゲーオルグ・ハッケンシュミットと言われています。
 

ゲーオルグ ハッケンシュミット
 

1892年、彼がまだ21歳の頃からロシア国内の大会のみならず国際トーナメントで優勝を重ねました。
アメリカの実力者トム・ジェンキンスをグレコローマンとフリースタイルの両方で破った後イギリス人、オーストラリア人やアメリカ人と戦う為にキャッチスタイルにも取り組み、両方のスタイルで2,000勝以上あげています。

女子レスリングの場合、オリンピックのルールはフリースタイルのみでグレコローマンスタイルはありません。アメリカでは一部で女子のグレコローマンスタイルのレスリング大会が開催されていますが、UWWでは協議はされているもののまだ公式種目として認定されていません。「男女平等」を謳うIOCとしては女子の部にも早急にグレコローマンスタイルを普及させる計画があるそうですが、もし実現してもルールや技術を一から習得しなければならないのでレベルが上がるまで時間がかかると言う課題も残っています。又グレコローマンの醍醐味でもある相手を抱え上げるリフトからの投げ技は腕力を必要とするので欧米の選手が圧倒的に有利であると言われています。
 

女子グレコローマン スタイルレスリング
 

男性顔負けのスープレックスをかける女性レスラーもいますが、アメリカでは単に「男が出来る事は女性でも出来る」と言う考えはナンセンスであり、女子レスリングのスタイルは女性の体系に合った既にIOCで認定されているフリースタイルの方が望ましいと言う選手も多くいらっしゃるそうです。
 
現在のフリースタイルの原型はフォークスタイルから来ていると言われ、そのフォークスタイルはイギリス人がアメリカに移住した際持ち込んだキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイルが源流とされています。

2. キャッチ・アズ・キャッチ・キャン スタイルとは

キャッチ・アズ・キャッチ・キャンス・スタイル(長いので一般的には略してCACC又は単にキャッチと呼ばれています)は、1870年頃にイギリスのJ.G.チャンパースによって作られたスタイルと言われています。「レスリングの歴史」でも述べていますが、当時のレスリングは主に貴族階級にのみ許されたスポーツで一般庶民はサーカスや移動遊園地の様な所などで活動していました。いや、それしか方法がなかったといっても過言ではない時代です。レスラー達は対戦を有利にする為に各自で組み技を編み出し観客に披露していました。
キャッチスタイルはイングランドやアイルランド式レスリングの組み技や関節技を取り入れたスタイルで現在でもプロレスや近代柔術の練習に使われています。
 

 
 

キャッチ・アズ・キャッチ・キャンとは「掴める所は全て掴め」と言う意味で、グレコローマンよりオープンなルールで行われます。オープンと言ってもグレコローマンが閉鎖的と言う意味ではなく、悪質な反則技と打撃以外はほとんど何でも有りと言う意味だそうです。
1871年J.G.チャンバースはロンドン近郊で新しいスタイルのレスリングを編み出しザ・キャッチ・アズ・キャッチ・キャン スタイルと名付けますが残念ながら当初は全くと言っていい程人気がありませんでした。
しかし数名のプロモーターが興味を示し、新たにアマチュアレスリング協会を立ち上げこのスタイルを全面的にアピールしました。
 

 

キャッチレスリングはイングランド北西部にあるランカシャー州で生まれたランカシャースタイルの特長に似ていましたがランカシャースタイルの様に過激ではなく目新しかったと言う事もあり観客に受け入れられます。
キャッチスタイルは腰から下への攻撃が許され関節技や抑え込んでの寝技も多く用いられ、時には残酷なシーンもありましたのでグレコローマンとは全く別物とされていました。キャッチスタイルの動きは独自に進化し、多くの関節技は日本の柔術との異文化交流で取り入れたとしています。
 

 

19世紀後半にアメリカに移住したイギリス人により持ち込まれたキャッチスタイルは、アメリカでも移動遊園地(サーカス)等で活動していたレスラー達に大人気になりました。
 
キャッチレスリングはアメリカで独自に進化し、アメリカのプロレスを中心に取り入れられ、現在の学生レスリング(カレッジレスリング)で実施されているフォークレスリングに進化したと言われています。

3. フォークスタイルとは

アメリカの高校や大学で実施されているアメリカンスタイルのレスリングで「カレッジスタイル」とも知られています。
 

フォークスタイルレスリング
 

フォークとは「民族の」又は「国民の」と言う意味でフォークレスリングとは本来世界中の国々の各地域の民族が行っているスタイルのレスリングとなります。日本で言えば相撲や柔術もフォークレスリングに当てはまります。アメリカのフォークレスリングはカレッジスタイルとして分類され今では一般的にカレッジスタイル=フォークスタイルとして認識されています。源流はキャッチ・アズ・キャッチ・キャン。NCAA(全米大学体育協会又はアメリカ大学運動協会)・高校の場合はNFHS(全米高等学校協会)が中心に行っているフォール決着のレスリングです。プロレスが3カウントで決着するのはカレッジレスリングから来ているとされています。
グレコローマンスタイルの様にキャッチスタイルとの大きな違いはありません。フリースタイルと比べカレッジスタイルはボディコントロールに重点を置き、ライディングタイムが与えられエスケープポイントが設けられています。
フォークスタイルは相手に立ち上がられるとポイントを失うので、立たせない様にディフェンスの技術が発展してきました。
 

フォークスタイルレスリング -2
 

又、下になっている選手が上になるとテイクダウンと同じポイントが入ります。テイクダウンをした時にすぐにフォールを取りに行くのがフリースタイルでフォークスタイルはじっくりと攻めると言われています。
フォークスタイルは抑えている時に腕をクラッチしてはいけないので腕力ではなくボディで相手をコントロールする必要があるのでグランドでのボディコントロールが優れているとされています。
 

フォークスタイルレスリング-3
 

女子学生が参加し始めた時期は明確ではありませんが、1970年代とされています。男子に交じって練習していて、1993年マサチュウーセッツ洲ブルックリンのブルックリン高校が公立高校として最初の女子レスリング部を作ります。最初の全米女子レスリング選手権が開催されたのは1997年です。その後各洲で選手権大会が開催され現在では中学生も参加しています。
 

レディース フォークスタイルレスリング
 

ちなみに、アメリカのカレッジレスリング(学生レスリング)ではヘッド(イヤー)ギアーの着用が義務付けられています。
ほんとんどの選手はうっとうしいのとカッコ悪いので着用を嫌がっていますが、アメリカらしくアメリカンフットボールやラクロス、アイスホッケーの様なハードコンタクトの格闘競技には選手を怪我から守ると言う観点から色んなプロテクターの着用を義務付けています。
 

 4. フリースタイルとは

前述の通り、グレコローマンスタイルは腰から下への攻撃又は防御は禁止されているのに対してフリースタイルは全身を攻撃&防御に用いる事が出来ます。全身への攻撃に制約がないのでタックル中心の試合展開になる事が多く、寝技の攻防も見どころの一つですね。
 

フリースタイルレスリング

 
フリースタイルはイギリスが発祥のキャッチ・アズ・キャッチ・キャン (CACC) のルールを改良し後にアメリカでカレッジレスリングに発展し、そこからさらに進化したスタイルです。
オリンピック競技で行われているのはフリースタイトとグレコローマンスタイルですね。
レスリングは、1896年から始まった近代オリンピックの正式種目として認定されています。しかしスタイルに関しては、イギリスを除くヨーロッパ勢はフランスが発祥のグレコローマン、イギリスを含むアメリカ勢ではキャッチレスリングが主流であったので両者間での主導権争いが頻繁に起きていたそうです。当時のオリンピックでグレコローマンが主流とされていたのは、近代オリンピックの父であるピエール・ド・クーベルタン男爵がフランス人であったからと言う説もないわけではありません。
開催地がアメリカであったと言う事もあり、フリースタイルが正式なオリンピック種目として認定されたのは1904年のセントルイス大会から。当時は40名が参加し、全員がアメリカ人でした。しかし1912年のオリンピックでは再び除外され、今の様な位置付けとなるのは1920年のアントワープ大会からです。
 

レディース フリースタイルレスリング
 

女子レスリングの起源は紀元前7世紀頃の古代ギリシャ時代スパルタにあります。それから気の遠くなるような長い年月を得て女子レスリング・フリースタイルがオリンピック種目に認定されたのは2004年のアテネ大会。オリンピックで女子レスリング最初の金メダルを獲得したのはウクライナのイリナ・メアレニです。

5. その他のレスリングスタイル

UWW(世界レスリング連合)ではオリンピックスタイルであるグレコローマンとフリースタイル以外にも、ノン・オリンピックスタイルレスリングとして:
グラップリング(又はサブミッション)
パンクラチオン
ビーチレスリング
フォークレスリング
サンボ
アマチュア総合格闘技 を管轄しています。
 
●グラップリング (サブミッション)とは関節技が中心で打撃技とヒールホールなど危険な技は禁止です。打撃のない総合格闘技でブラジリアン柔術と同じ流派とも言われています。
 

クラップリングレスリング

 
●パンクラチオンとは、グラップリングに打撃技を加えたスタイル。相手がギブアップする事で勝敗が決まります。
●ビーチレスリングとは、文字通りビーチで行うレスリング。勝敗はフォールで決まります。
●サンボとは元々ソ連の軍隊で採用されていた護身術で1930年代にスポーツサンボとして開発された格闘技です。日本の柔道とも深いつながりがあります。一件「柔道と同じ」と思われがちですが、組手の制約は柔道よりも少なく、柔道とは試合展開が異なります。勝敗は投げ・関節技による一本又は抑え込み等のポイントで決まります。サンボには、打撃を追加したコマンドサンボもあります。
 

サンボレスリング
 

●アマチュア総合格闘技とは、固め技・投げ技・打撃等「何でも有り」の格闘競技。打撃系と組技系両方の技術を必要とします。タップアップ、レフリーストップ又はタオル投入で勝敗が決まります。
 
 

 
 

【監修: strategic global marketing 板倉 孝】

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参考文献

fscclub.com
esascpsas.com
en.wikipedia.org
jp.wikipedia.org
lowch.com
japan-wrestling.jp
mmaplanet.jp
japan-sambo.com
 

 
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